静岡のお茶について、これまで当サイトでは産地・品種・淹れ方・体験・カフェ・おみやげと、テーマ別に9本の記事に分けて紹介してきました。この記事は、その9本を1本に統合した完全版です。静岡茶のことは、このページだけ読めば分かるようにまとめ直しました。
ちょうど今(7〜9月)は、県内の茶問屋やカフェが本気のかき氷を出す「茶氷」の季節。飲むだけではないお茶の楽しみ方も、後半で紹介します。
静岡が「お茶の都」と呼ばれる5つの数字
「お茶といえば静岡」は印象論ではありません。データで見るとこうなります。
- 茶栽培面積:日本一(約11,600ha/全国の約4割)※農林水産省統計
- 荒茶産出額:日本一(緑茶仕上茶の出荷額は1,297億円)※静岡県公式
- 荒茶生産量:全国2位(2025年は24,100トン/1位は鹿児島県)
- 有名茶産地:県内に20以上(牧之原・掛川・川根・本山・足久保・梅ヶ島・天竜・ぐり茶など)
- やぶきた品種シェア:静岡県内で9割超(全国平均は約8割弱)
2024年に荒茶生産量では鹿児島県に首位を譲りましたが、栽培面積・産出額・品種の多様性では依然として日本一。静岡茶は「量より質」の方向に進化しています。

産地で選ぶ静岡茶
品種が「茶葉のDNA」なら、産地は「育った環境」。同じやぶきたでも、土地が変われば味も香りも変わります。主要産地の個性はこの表で押さえられます。
| 産地 | 地形 | 味の特徴 |
|---|---|---|
| 牧之原 | 台地・平坦 | 深蒸し茶発祥。濃厚でコクがあり、まろやか |
| 掛川 | 低山地 | 深蒸し茶の聖地。世界農業遺産「茶草場農法」。渋み少なく甘い |
| 川根 | 大井川上流・山間 | 約400年の歴史。黄金色に近い澄んだ水色と爽やかな香り |
| 本山(静岡市山間) | 安倍川・藁科川上流 | 約800年の歴史を持つ静岡茶のルーツ。徳川家康も愛飲 |
| 岡部(藤枝市) | 朝比奈川流域 | 日本三大玉露産地「朝比奈玉露」 |
| 伊豆(伊東市) | 伊豆半島東部 | 「ぐり茶」(蒸し製玉緑茶)。渋み控えめでまろやか |
品種で選ぶ静岡茶|やぶきた・つゆひかり・ふじかおり
やぶきた|国内シェア約7割の日本代表
1908年(明治41年)、静岡市の篤農家・杉山彦三郎氏が在来種から選び出した品種。竹やぶの北側で見つかったことが名前の由来です。さわやかで深みのある香り、旨味・甘味・渋味・苦味のバランス、鮮やかな水色。煎茶から玉露・抹茶まで対応できる万能選手で、全国の茶畑の約7割、静岡県内では9割以上を占めます。静岡市葵区には彦三郎氏が選抜した「やぶきた原樹」が今も保存されています。
つゆひかり|渋みが少ない甘旨系
静岡県茶業試験場が育成し、2003年に品種登録。旨味成分テアニンがやぶきたの約1.5倍、渋みのタンニンは約2割少ないのが特徴です。水色は目が覚めるほど鮮やかな緑。「苦いお茶が苦手」という人ほど、最初のひと口で印象が変わります。主産地は御前崎市です。
ふじかおり|ジャスミンのような花香
やぶきたを母に持つ静岡県育成の品種。アンスラニル酸メチル由来の花香があり、煎茶なのにジャスミンティーのような香りが立ちます。浅蒸しで仕上げてガラスのポットで淹れ、立ち上る香りごと楽しむのが王道です。

飲み比べのコツは3つだけ
- 水色(みずいろ)を見る:湯呑みを真上から。やぶきたは黄緑寄り、つゆひかりは鮮やかな緑、ふじかおりは透明感のある淡い緑
- 香りを3段階で追う:急須の蓋を開けた瞬間→注いだ後→飲み込んだ後の戻り香
- 温度を変えて2煎目を試す:1煎目は70℃前後で旨味、2煎目は80〜90℃で香りと渋み。特につゆひかりは低温で本領発揮
玉露と抹茶|静岡茶のもうひとつの顔
「静岡茶=深蒸し煎茶」と思われがちですが、静岡には最高級ラインがあります。日本三大玉露産地の「朝比奈玉露」と、1988年に始まった静岡抹茶です。

玉露とは|覆いが生む最高級の旨み
摘採前に20日ほど茶園を覆う「被覆栽培」で、旨み成分テアニンを蓄え、渋みのもとカテキンを抑えた特別なお茶です。海苔に似た「覆い香」と、とろりとした甘みが特徴。1kgの新芽からできる玉露はわずか200g前後で、価格は煎茶の数倍になります。
朝比奈玉露|京都宇治・福岡八女と並ぶ三大産地
藤枝市岡部町朝比奈地区は、農林水産大臣賞を幾度も受賞してきた最高級玉露の産地。朝比奈川から立ちのぼる霧が天然の覆いとなり、玉露づくりに理想的な環境をつくります。茶栽培の歴史は室町時代まで遡り、最高峰の「手摘み本玉露」は100g数千円〜1万円超で取引されます。2024年には体験施設「玉露テラス朝比奈」(完全予約制)もオープンしました。
静岡抹茶と丸七製茶|「世界一濃い」の生みの親
静岡の本格的な抹茶生産は1988年、藤枝市岡部町での碾茶(てんちゃ)生産から始まりました。立役者は創業1907年の丸七製茶。同社のスイーツブランド「ななや」の7段階抹茶ジェラートは「世界一濃い」と評され、世界中の抹茶好きが藤枝を訪れるきっかけになっています。京都宇治のまろやかさに対し、静岡抹茶は澄んだ緑とすっきりした香り、後味の軽さが持ち味です。
淹れ方|家のお茶が劇的にうまくなる黄金比
急須で淹れたお茶とペットボトル茶は、はっきり言って別の飲み物です。押さえるのは「茶葉の量・お湯の温度・時間」の3つだけです。

| 茶葉の量(1人分) | お湯の温度 | 抽出時間 | 湯量 | |
|---|---|---|---|---|
| 煎茶(普通蒸し) | 2〜3g | 70〜80℃ | 約1分 | 約100ml |
| 深蒸し煎茶 | 2〜3g | 70〜80℃ | 約30秒 | 約100ml |
| 玉露 | 2〜3g | 50〜60℃ | 2分〜2分半 | 10〜60ml |
温度計は不要です。器をひとつ移すごとにお湯は約10℃下がるので、沸騰したお湯を湯呑み→別の湯呑みと2〜3回移せば70〜80℃になります。玉露なら3〜4回。高温だと渋み(カテキン・タンニン)が先に出て、低温だと旨味(テアニン)が主役になります。「高温=渋い、低温=甘い」とだけ覚えてください。
手順は5ステップ
- お湯を沸騰させる(カルキを飛ばす)
- 湯呑みに注いで器を温めながら70〜80℃まで下げる
- 急須に人数分×2〜3gの茶葉
- お湯を急須に静かに注ぐ
- 1分(深蒸しは30秒)待ち、少しずつ回し注いで最後の一滴まで絞り切る
複数人分はA→B→C→C→B→Aの「廻し注ぎ」で濃さが均等になります。最後の一滴(ゴールデンドロップ)を残すと二煎目が渋くなるので、必ず出し切ります。二煎目は温度をやや上げて時間は半分、三煎目は熱湯でさっと。残った茶殻はポン酢と削り節でおひたしにできます。静岡では「茶殻も食べる」のがおなじみです。
急須選びと茶葉の保存
迷ったら常滑焼(愛知)か萬古焼(三重)の焼き締め急須。土の凹凸が渋みをまろやかに整えてくれます。深蒸し茶には細かい網の茶こしが必須です。焼き締め急須は洗剤を使わずぬるま湯ですすぐだけでよく、茶葉は密閉して冷暗所へ。冷蔵庫に入れた場合は、結露を防ぐため常温に戻してから開封します。静岡市の呉服町周辺には竹茗堂(創業1781年)、日本茶きみくら呉服町店、清水区の梅芳園など茶器を選べる老舗が集まっており、「呉服町散歩=茶器めぐり」ができます。
新茶と八十八夜|1年で一番贅沢な季節
新茶(一番茶)は、冬の間に蓄えた栄養が凝縮された年に一度のお茶。旨味成分テアニンは二番茶の約3倍です。「夏も近づく八十八夜」は立春から88日目のことで、2026年は5月2日でした。「八十八夜に摘んだ新茶を飲むと一年間無病息災」という言い伝えが江戸時代から続いています。新茶シーズンは例年4月下旬〜5月。この時期の静岡は、産地の直売所がいちばん活気づきます。
体験する|茶摘み・茶娘衣装スポット5選
あの「茜だすき」の茶娘衣装をレンタルして、茶畑で茶摘み体験ができます。一番茶(4月下旬〜5月中旬)が最も写真映えしますが、多くの施設で夏・秋にも開催されます。開催日は茶葉の生育で前後するため、訪問前に公式サイトで確認してください。

| 施設 | 場所 | 目安料金 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| グリンピア牧之原 | 牧之原市 | 茶摘み大人1,000円+衣装1,500円 | 定番。大茶園+工場見学+ななやのジェラート |
| 蔵屋鳴沢 | 伊豆の国市 | 2,200円(衣装込み) | 世界遺産・韮山反射炉と富士山が背景に入る |
| ふじのくに茶の都ミュージアム | 島田市金谷 | 体験により異なる | 県立の総合茶博物館。雨の日も茶道・抹茶挽き体験 |
| キウイフルーツカントリーJapan | 掛川市 | 衣装2,000円 | 茶草場農法の茶畑+キウイ食べ放題の異色コラボ |
| 大淵笹場 | 富士市 | 茶娘プラン2,000円 | 電線が写らない「富士山×茶畑」の絶景撮影地 |
GW〜5月中旬の土日は予約が争奪戦になります。1ヶ月前を目安に動くこと、足元はスニーカー、日焼け対策必須。この3つだけ覚えておけば大丈夫です。
カフェで飲む|プロが淹れる「本物の一杯」

- chagama(静岡市葵区):1877年創業の製茶問屋による日本茶専門店。100種類以上のお茶がすべて試飲でき、品種の飲み比べに最適
- 茶町KINZABURO(静岡市葵区茶町):創業100年超の茶問屋直営。2階イートインで10種類の飲み比べと産地別抹茶ワッフル「茶っふる」
- 日本茶きみくら 茶寮(ASTY静岡):掛川の製茶問屋が運営。静岡駅直結で、玉露・抹茶も追加で楽しめる初心者の入り口
- KADODE OOIGAWA(島田市・門出駅直結):16種類から選ぶ「MANDARA茶柱」体験が人気の体験型フードパーク
- グリンピア牧之原(牧之原市):茶畑を眺めながら淹れたての新茶。茶摘み体験とセットで
スイーツで楽しむ|ななや・雅正庵・茶氷

ななや 藤枝本店|7段階の抹茶ジェラート
丸七製茶のブランド。No.1からNo.7まで濃さを選べるジェラートが看板で、最高濃度のNo.7は「世界一濃い」と称されます。呉服町通りのななや静岡店は2026年3月31日で営業終了し、現在県内で食べられるのは藤枝本店のみです(藤枝市内瀬戸坂下141-1、水曜定休)。通販では7段階の抹茶チョコ「プレミアム抹茶セブン」も買えます。
雅正庵 千代田本店|自家製抹茶の鞠福パフェ
おやいづ製茶のブランド。抹茶ソフト・抹茶スポンジ・抹茶寒天に、名物の生クリーム大福「鞠福 濃い抹茶」がのった鞠福パフェ(単品1,100円)が看板です。使う抹茶はすべて自家製です。
KIMIKURA CAFE(掛川市)|公園の中の抹茶パフェ
日本茶専門店きみくらが大池公園内で運営。自家製抹茶アイス+ティラミスクリーム+塩味の粒あんの和風パフェが人気で、子連れでも入りやすい立地です。上位ラインの茶寮「茶菓きみくら」では、抹茶ソースを自分でかけて濃さを調整できる掛川抹茶パフェ(1,330円税別)も。
夏限定「茶氷プロジェクト」|いま行くならこれ
毎年7〜9月、県内の製茶問屋・カフェ・茶農家が一斉に本気のかき氷を出す夏の祭典です(2025年実績は62店舗参加)。市販のシロップではなく、各店が自前で挽いた茶葉を使うのが最大の違い。抹茶・ほうじ茶・煎茶・和紅茶と、茶葉の香りが氷の上で立ち上がります。参加店リストは公式サイト(chagori.com)で確認できます。
おみやげに買う|場所と価格帯で外さない選び方
どこで買うか
- 時間がない:静岡駅——駅直結のパルシェ食彩館(9:30〜21:00)とASTY静岡。和紅茶専門「ニガクナイコウチャ」や「matcha KIMIKURA」の抹茶ラテも
- 飛行機の人:富士山静岡空港——ターミナル2階に伊藤園直営の専門店と「しずおかマルシェ」
- こだわる:産地直売——牧之原(深蒸し発祥)・掛川(茶草場農法)・川根(低農薬の山のお茶)の茶農家直売。鮮度が別物です
- 物語で選ぶ:老舗茶舗——マルヒデ岩崎製茶(静岡市葵区・毎月1日の「マルヒデ百貨店」は行列)、茶町KINZABURO、丸七製茶ななや藤枝本店
- 通販——葉桐(希少品種含む200種類以上)、静岡茶通信直販センター(贈答に強い)など
価格帯の目安
- 1,000円前後:職場へのおすそ分けはティーバッグか100g前後の煎茶
- 3,000円前後:目上の方へは新茶シーズン限定品か深蒸し煎茶の上級ランク。桐箱・缶入りで
- 5,000円以上:格式ある贈答は玉露・高級抹茶セット。本山茶・川根茶・掛川茶の飲み比べセットはお茶好きへの決定打
海外の方へは、苦みより甘み重視の深蒸し煎茶か、ラテやスイーツに使える抹茶パウダーが喜ばれます。ティーバッグ・個包装で淹れ方を選ばないものが安全です。おみやげを狙うなら4月下旬〜5月の新茶シーズンが最良。7〜8月以降は前年茶も流通するので、製造年月の確認を忘れずに。玉露・抹茶は未開封でも半年で風味が落ちはじめるため、少量ずつ買うほうが結果的に満足度は高くなります。
1日で回るモデルコース
- 10:00 雅正庵 千代田本店(静岡市)で鞠福パフェ
- 11:30 呉服町で茶器めぐり(竹茗堂・きみくら)→茶町KINZABUROで飲み比べ
- 13:30 ななや藤枝本店で7段階ジェラート+おみやげ
- 15:30 KADODE OOIGAWA(島田)かKIMIKURA CAFE(掛川)へ。時間があれば牧之原の茶畑まで
新茶シーズン(4月下旬〜5月)なら、午前をグリンピア牧之原の茶摘み体験に差し替えるのがおすすめです。
よくある質問
Q. 深蒸し茶と普通煎茶の違いは?
深蒸し茶は蒸し時間が長く、茶葉が細かいぶん短時間で濃く出ます。色が濃く、まろやか。牧之原・掛川・菊川エリアの主流製法です。抽出は30秒で十分です。
Q. 茶葉はどう保存する?
密閉できる茶筒に入れて冷暗所へ。冷蔵庫に入れた場合は、結露を防ぐため常温に戻してから開封します。長期保存は未開封のまま冷凍が有効です。
Q. 新茶はいつ買うのが一番おいしい?
5月上旬〜中旬の初摘みが最も香り高い時期です。「2026年新茶」「一番茶」の表記があるものを選んでください。
Q. 子ども連れで楽しめる場所は?
KIMIKURA CAFE(公園内)、KADODE OOIGAWA、グリンピア牧之原が入りやすいです。茶摘み体験は小学生からが目安です。
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まとめ|静岡茶は「1つのジャンル」ではない
産地で選ぶ、品種で選ぶ、玉露まで極める、淹れ方で変える、摘みに行く、カフェで飲む、スイーツで食べる、おみやげにする。静岡茶は、この8通りの入り口を持つお茶の集合体です。
まずはひとつ。急須と煎茶1袋から始めるもよし、週末にななやのNo.7を目指すもよし。この夏なら、茶氷から入るのが一番手軽です。どの入り口から入っても、行き着く先は同じ——「ペットボトルには戻れない」世界です。
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